ファッションの本質についてのワークショップその2『ウールの話・ニットの話』2012/10/17 12:49

(写真は、デンマークのデザイナー、Helga Isagerによるハンドニットのブランド、『amimono』のカーディガン。現状考えられる最高のクオリティーのひとつといって良いと思います。)

ccplus
「ウールというのは、それを飼う段階で必然的に環境の激変を伴うんですね、それはしょうがないと思います。
オーガニックコットンは地球に優しいみたいなことを思っている人は多いかもしれないけれども、農薬とかそれだけの問題でもないんですね。

(後注 モンサント社に代表される、農薬と遺伝子組み換えの種という重大な問題もある)


コットンの問題は、やはり人為的な問題が大きいと思います。
コットン生産で一番問題なのは、これはソ連で起きたことなんですが、社会主義=共産主義の勝利のための計画農業とか言って、カスピ海の水を灌漑用に使って用水路を作り、一帯で大々的に綿花の栽培を始めたのです。


乾燥地帯というのは、日照が多いので、水さえあればいくらでも作物が栽培出来るのです。
だから、最初のうちは大量の綿花が採れました。それがソ連の勝利と盛んに宣伝されたわけですが、やがてあたり一帯に異変が起きていくのです。


まず、周囲の村の井戸が涸れ、やがてカスピ海の水位がどんどん下がっていきました。そして、綿花を栽培していた場所には、塩が浮き出てきて、栽培が出来なくなっていきました。塩害です。
塩害は、水位の下がったカスピ海でも起りました。
周囲全てで、もはや、いかなる作物の栽培も出来なくなり、村がゴースト化していったのです。


これは、ソ連という共産主義の体質が生んだ悲劇ということでもないようです。なぜなら現在、インドでも同じようなことが起りつつあるようですから。

(後注 生態系を無視して効率を求め過ぎることに、悲劇の本質があると思われる)




ただ、環境環境ということばかりを言いたいわけでもないのです。
人間が幸せにならなくては、何のために生きているのか分らない。

(後注 たとえば、無理してボロボロのもの着たり、カッコワルいもの着たりして、人から嫌われたりしたら、人生意味不明なものになってしまうだろう。)




イギリスのウールを見たところで、次はイタリアのウールを見てみましょう。
これですね。

イタリアのエキストラファインメリノのニットを見せる。

竹田
「柔らかくて気持ちいいですね。」



ccplus
さっきのイギリスの丈夫なニットは、固くて痛いですけど、こういったニットは柔らかくて着やすいんですよ。これがイタリア糸のニットです。おそらくイタリアはウールの生産地というよりは、加工地なんですね。だから糸の加工が進んだのではないでしょうか?色とか艶とか柔らかさとかですね、そういう面でイタリアのニットはスゴいんですよ。
食べ物で言えば、イギリスのニットは素材を活かす和食に近いもので、イタリアのニットは作り込んだフランス料理みたいなものですね。



他にもウールの産地(加工地)で、全然ニットの表情が違いますよ。


これが、アイルランドのウールです。ぬめっとした光沢があって柔らかく、しかも丈夫な良いニットです。品種もあると思いますが、雨が多いという気候的なものも大きいと思います。



こちらがスコットランドのウールです。アイルランドのと似てますけど、もっとしっかりした(がっちりとした)感じがするのではないか?と思います。その分ちょっと固めですけど。。
もっともこの辺は、品種の違いや加工の違いもあるので一概には言えないですけれども。。





こちらはタスマニアウールと呼ばれているものです。
南半球のニットですね。これもぬめっとした光沢があり、大変肌触りがいいと思います。



これはデンマーク製の手編みのニットです。素材はニュージーランド産らしいです。色が独特ですよね。北欧らしい色使いです。この辺は、緯度と太陽の光の屈折率の関係や環境がありますよね。
北欧だとこういう色が映えるんですね。
(後注 武蔵野は、植生がデンマークに近い=落葉樹を利用し生活してきた雑木林なため、比較的デンマークのような北欧のものが良く合うようだ。吉祥寺で北欧系が人気あるのは、その辺りが大きく作用していると思います。そして、午後遅い時間や夕暮れ、朝に見ると特に綺麗になります。)



ニュージーランド産のメリノウールを使っているデザイナーも、とても多いです。
きめが細やかで肌触りがとてもよいと思います。



似たようなウールを使っていても、ドイツ製とフランス製とイタリア製では、多くの場合まるっきり表情が違うのも分るかと思います。
染色方法とか、加工法が違うんです。


ベルギーのウール生地は、伝統的にとてもしっかりしていてシックだし、フランスは華やかだし、ドイツは地味で丈夫、イギリスのもしっかりと丈夫なものが多く、イタリアのウールには色気があるのが多いです。



地中海と大陸内部では光の加減が全く違いますから。



日本は化学繊維の生地がとても発達しているのですが、ウールに関しては、クレームがつかないような品質を重視している感がありますね。色気は少ないです


日本は特に、工業製品としての生地や服としての捉え方が強いので、量産品を作るのは向いてますが、風合いとかを欧州の一流メゾンのように追い求めるのは、極めて難しい状況があるようです。
(後注 昔は着物生地という素晴らしいものが普及していたにも関わらず、そういう文化は衰退。現在でも、実はものすごい生地作っていたりもするのだが、とんでもなく高価か、あるいは売れずに直ぐ廃盤。B品扱いになってしまうものも多い)


やはり、生地にどのようなものを求めるか?国民性が違うのでしょう。
イタリアの生地には、それ自体が歌っているかのような、何かを語りかけるような、そんな表情豊かな生地があります。もっとも、クレーム付きそうなものもあるんですが、それは当然というか、それよりも美を選ぶぜ俺たちは!みたいなそういう国民性が出ていると思います。ま、僕はそういうのが好きなんですけどね。申し訳ないけど、環境一辺倒にはなれないようです。笑



こちらは砂漠のラクダの毛キャメルです。ラクダは剛毛ですが、激しい日射しや温度差や砂嵐から身を守るために、内側にこんなに柔らかい毛があるんですね。



これは、ペルーのアルパカです。繊維が長くって光沢があって暖かく丈夫です。
とてもオススメな素材のひとつです。
原毛の色も素晴らしいですし。


ただ、アンデスとか高山の民族衣装は、モンゴルとかもそうですが、色がものすごく突き抜けた鮮やかな色が出てたりするんですが、たとえば日本に持ってくるとちょっと可哀想な発色になってしまいますね。

やはり空気の質が違いますので。

色というのは単独で存在しないので、しかるべき場所で見ないと美しくないということかもしれません。


続きます。

text by contemporary creation+
http://www1.parkcity.ne.jp/ccplus/


最後までお読みいただいてありがとうございました。
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